シェーンベルク『主題と変奏 作品43a』

1951年に没したアルノルト・シェーンベルクは、その少し前にこう語った。「あと50年もして、人々が私のことを何者かわかるといいが」と。

「20世紀の音楽に最も影響を与えた人物」、12音技法を伴って彼はそう呼ばれる。「今日、世間一般にはシェーンベルクは革新者、いやさらにはある体系の発明者として思われている」とアドルノは述べる。

では、シェーンベルクとは何者だったのだろう。シェーンベルク自身は、自らを作曲家、それも感動的な傑作を書いた作曲家であると思っていた。けれども彼の作品は常に喧騒と野次の中にあり、彼の考案した12音技法はセリーの技法へと発展し独り歩きしていくのに対し、彼の作風は常に様々な矛盾と対立し足止めを喰らい続けていた。死の11日前、ダルムシュタットで行われた『黄金の仔牛のまわりの舞踏音楽』の初演で初めて熱狂的な拍手を受けるまで、シェーンベルクはそういったものには無縁の作曲家であった。実際に、50年以上が過ぎた現在においても、シェーンベルクの作品に触れる機会は少ない。名こそ知れ、CDショップの彼のコーナーは閑散とし、演奏会で彼のプログラムを見ることも決して多くはない(思い立ってオール・シェーンベルク・プログラムなどを決行してしまうと、今度は客席が閑散とすることになる)。

しかし、そのような事実が、シェーンベルクの作曲家としての能力の欠如を示すものではない。アドルノは、シェーンベルクの作品を「最後まで作曲し尽くされ」ていると述べ、このように綴っている。

実際、シェーンベルクの音楽は、最初から能動的かつ集中的な共同遂行を要求する。すなわち、同時進行の多重性に対する最も鋭い注意、次に何が来るかいつも既にわかっている聴き方というありきたりの補助物の断念、一回的な、特殊なものを捉える張りつめた知覚、そしてしばしばごく僅かの間に入れ替わる様々な性格と二度と繰り返されないそれらの歴史を正確につかむ能力などを、それは要求する。(略)彼の音楽が聴き手に贈るものが多ければ多いほど、彼の音楽は同時にますます聴き手に受け入れられなくなる。

シェーンベルクは作曲家として聴き手に何も訴えかけないのではなく、あまりにも過剰に求め、与え過ぎるのであり、そのために遠ざかるというアドルノの言葉に意を得るところは多いだろう。我々受け手の側が受動的に接することでこそ、シェーンベルクの音楽は輝きを増すのである。

『主題と変奏』は、シェーンベルク唯一の管楽合奏のための音楽である。この作品には管弦楽版も存在する。1943年、アメリカのスクールバンドのレパートリーの拡張と、シェーンベルクの作品の普及という名目での出版社の要請に応える形で作曲されたこの作品は、その構造の複雑さから、アメリカの当時のアンサンブルの技術能力を超えるものであったため、演奏されることが困難であった。作曲者自身によって発表された管弦楽版のほうが初演が早く、1944年にボストン交響楽団(クーセヴィツキの指揮)によって行われた。結局管楽合奏版はそれに遅れること2年の1946年に、ゴールドマン・バンドによって初演されることになる。

作品43『主題と変奏』についてシェーンベルクは、調性を用いて作曲していることから作品目録からは外すように指示したと言われるが、彼自身、名人芸を駆使したこの作品を楽しみながら作曲したと言う。作品は主題の後7つの変奏をはさみ、フィナーレに向かう。その間2度のフェルマータをはさむ以外は寸断なく音楽は進行していく。主題は細かなパーツに分けられ、それが12音技法的な変奏の仕方で顔を覗かせながら、常に音楽を生気づける。また、楽器の使用法でも音色旋律的要素をふんだんに織り込みながら、斬新な組み合わせを選択している。管弦楽版と比べても、平易になっていない分、シェーンベルクの飽くなき探求と意欲的な姿勢が管楽合奏版には表れている。作曲から60年が経過した現在においてもなお、他のいわゆる「吹奏楽」作品とは一線を画す傑作であると言えるだろう。

西暦2000年にシェーンベルクはどのように受け止められているかという興味深いラジオドキュメンタリーを制作したのは(1963年)、彼のピアノ作品を全曲録音したピアニスト、グレン・グールドである。グールドはシェーンベルクを、伝記的意味合いではなく音楽的意味合いから、「この世にあった最も偉大な作曲家のひとり」と評価している。

20世紀を良かれ悪かれ束縛したシェーンベルクの引力は、確かに薄れはじめている。しかし、だからこそ今、我々は純粋に彼の音楽を聴く耳を持てるのではないだろうか。この謎めいた作曲家の業績を受け止めたその彼方に、我々の「これから」の音楽のかたちを、見ることが出来るはずである。

 

細越一平(指揮)
2003年3月 ensemble_TSUKUBA CONCERT#2 プログラムノートより

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